【短編ストーリー】恋する彼は、にゃんこ。

目次
恋する彼は、にゃんこ。















第1章:再会

「……で、つまり、あんたは猫ってこと?」
凛は信じられないという目で、目の前の”かわいいイケメン男子”を睨みつけた。
「そうなのだ」
「なるほど、、、それで、あの場所で猫ポーズか…」
(うーむ、彼女はあまり驚いていないのだ…。というより、、、納得してる…。不思議な子なのだ)
凛は、驚きより納得感が大きかった。
「道端で可愛いイケメン男子が猫ポーズして道をふさぐ」
この理解が、よっぽど追いつかなかったのだろう。
「じゃあ、もう1つの質問の答えは?」
凛は最初、”なんで私を追っかけてくるわけ?”と質問していた。
「それは…凛が僕を助けてくれたから」
「その”恩返し”に来たのだ」
「……え?」
思いもよらない言葉に、凛は戸惑った。
幼い日の記憶

「昔、雨の中で僕はずっと震えていたのだ。びしょ濡れで動けなくなっていたとき…凛がそっと手を差し伸べてくれた」
「……そんなこと、あったかな?」(てか、なんで私の名前知ってるのよ)
「僕のこと、タオルで拭いて、町の役所まで届けてくれたのだ」
——ぼんやりと記憶が蘇る。
確かに、小学生の頃、凛は道端で濡れた子猫を見つけ、抱きかかえて町の役所まで連れてったことがある。
「……あの時の猫が、あんた?」
「そうなのだ」
「……だからって、、、なんで人間になってるのよ!?」
「君に恩返ししたい。そう思い続けていると、気づいたら人間に変身できるようになってたのだ」
そんなもんか…
ぐらいにしか凛は考えなかった。まさか、、、彼(白猫)に恋心を抱くなんて、今はまだ想像もできない。
“レンタル彼氏”の提案

「凛は、彼氏が欲しいんでしょ?」
「な、なななっ!!! 何よ、いきなり!?」
突然の言葉に、凛の顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「は、はっ??! べ、別に困ってませんけど..???!」
凛は、あきらかに動揺している。
「うーむ…おかしいのだ。僕のデータでは、凛は彼氏ができたことなく、欲しくて欲しくて、もうたまらないという…」
「わぁーーーーーーっ!!
わかったわかった、、、恥ずかしいから、それ以上、言わないでっ!///」
バ、バレてる。
心の奥に秘めていた願望が、なぜか目の前の彼(白猫)にはスケて見えているようだ。
「ま、まぁ…私は可愛いからさっ。
そのうち、素敵な王子様が現れると思うけどっ」
「その意地っ張りな性格の結果、今まで彼氏0人なのだ」
ムキーーーーーーーっ!!!

こいつ、ズバッと正論かましてくるじゃないっ。
「だから、僕がレンタル彼氏になってあげるのだ」
「はぁっ!?なにそれ!!レンタル彼氏っ??!」
「簡単に言うと、お付き合いの練習だ。
凛が幸せになるために、好きな人と結ばれるように、僕がレンタル彼氏になってアドバイスしてあげるのだ」
「はぁっ?! そんなの、いらないわよ!
…だいたい、どうしてあんたがそんなことを?」
すると、彼(白猫)は語った。
「僕は、凛に助けられた。
ずっと恩返ししたかったのだ。意地っ張りで口は悪いが、心はすごく綺麗な人。実際に僕を助けてくれた。そんな凛に、幸せになって欲しいのだ」
「でも、君は意地っ張りだから、
今のままだと、恋が上手くいかない。
だから、僕とお付き合いの練習をするのだ」
「はっ!?…誰が意地っ張りよ!!」
「そういうとこなのだ」
「う、うるさいっ!!」
凛は、なんなんだ、この猫男は——と、ため息をつきながらも、心は正直ドキドキしていた。
名前のない白猫

「……で、あんた、名前は?」
「名前なんてないのだ」
「……え?」
「名前で呼ばれたことなど、1度もないのだ」
その言葉に、凛は少し胸が痛んだ。
今まで誰にも呼ばれたことがない…そんなの寂しいじゃん…。
「じゃあ、私がつけてあげるっ」
「うん、どんな名前だ?」
凛は腕を組み、彼をじっと見つめた。
白猫、バンダナ、そして——真っ直ぐな瞳。
「……シロ」
「シロ?」
「うん、単純だけど、あんたにはぴったりだと思う」
「そうだね。
誰もが思いつきそうで、シンプルで覚えやい名前なのだ」
「なっ‥!!
”誰もが思いつきそう”は余計でしょっ!」
「凛、ありがとう。
すごく気に入ったのだ」
そう言って、シロは嬉しそうに笑った。

その笑顔が、妙に胸を締めつけた。
(ちょ、、、その笑顔はズルいって…
そもそも、顔はタイプなのっ///)
シロと名付けたばかりの彼(猫)は、どうやら凛の日常を大きくかき乱す存在になりそうだ。
第2章 :特訓の巻

「さて、これから僕は凛のレンタル彼氏として完璧にサポートするのだ」
シロは胸を張って自信満々に言い放った。
「えぇ…本当にやるの?」
「もちろんなのだ。
凛が幸せな恋をするためなのだ」
こうして、シロのレンタル彼氏計画がスタートした。
1. 一緒にご飯を食べる 編

その日の昼、凛はシロを家に連れてきた。(※両親は旅行中)
「よし、レンタル彼氏1つめの特訓
まずは一緒に食事をするのだ」
「お腹減ってるだけじゃなくて?」
「ち、違うのだっ。
食事は相手との距離を縮める大チャンスなのだ」
「ふーん…で、何をすればいいの?」
「凛が手料理を振る舞うのだ」
「そ、そんなのできるわけないじゃん‥
インスタントラーメンぐらいしか、作ったことないんだから…」
「うむ、じゃあラーメンを作ってくれ」
「う、うん…
いいけど、ほんとにインスタントの簡単なやつだからね?」
…3分後

「こ、これは…
なんて美味しそうなのだ。凛、キミは天才かもしれない…」
「いやいやいやいや、
麺茹でて具材乗っけただけだからっ///」
と、言いながらも、褒められて嫌な気はしなかった。

(シロのやつ、、、まっすぐに褒めてくるから、ちょっと照れる…)
ラーメンをすすりながら、シロが言う。
「凛、つぎはアーンして食べさせるのだ。男はこういうのに弱いのだ」
「えーーーっ!!?!
いきなり、ハードル高すぎないっ?! ///」
「大丈夫なのだ。凛なら、これぐらいできるよ」
シロにそう言われると、凛は不思議とできそうな気がした。
「えー… じゃあ、チャーシューね。
はい、あーん…」

「うん、おいしいっ
凛が食べさせてくれたチャーシューは世界一なのだっ」
「いや、大げさすぎっっっ!///」
という凛の顔は真っ赤になっていた。
2. お出かけデート 編

「凛、今日はショッピングに行こうか」
「う、うん。
でも私、デートなんてしたことないし…何をしたらいいか全然わかんないよ?」
「大丈夫なのだっ
そのために僕がいる。安心してついてくるのだっ」
シロは見た目とは裏腹に”男らしい”一面があり、凛はそのギャップに心奪われつつあった。
「……わ、わかったっ///」
シロに言われるまま、ショッピングモールに向かった。

「シ、シロはさ……」
凛は話題を探して口を開いた。
「普段、どんな服を着るの?」
「ん? 僕は裸なのだ」
「そ、それは、猫の姿の時の話でしょっ!! ///」
「そうなのだ。
にゃんこの僕は服なんて着ないのだ」
うっ…
シロに服の話を振った、私が間違いだったか…
「凛はどんな服が好き?」
「えっ!?///」
凛は突然の質問に目を丸くした。
「え、えっと……可愛すぎるのはちょっと恥ずかしいし、でも地味すぎるのも似合わないから……あ、でも、ワンピースとか着てみたいかも……」
「ふむ、それなら……」
シロはニコッと笑い、凛の手をつかんで走り出した。
「ちょ、ちょっと!? どこ行くの!?」
「こっちなのだ!!」

シロが凛を連れてきたのは、可愛らしい服屋さん。
「こ、ここって……」
「凛に似合いそうな服が、たくさんあるのだっ」
シロが指さしたのは、淡いピンクと白のワンピース。
「これを着てみるのだっ」
ふんわりとしたデザインに、凛は一目で気に入った。
「え、すっごい可愛い。
でもこれ……私に似合うかな……? ///」
「きっと似合うよっ
試着してみるのだっ」
…試着中
数分経って、試着室のカーテンが開いた。
「ど、どうかな…?///」

「凛……」
シロは、凛に見惚れて時間が止まったように呆然としていた…
「シロ…?」
「あ…ごめんなのだ!
凛、すっごく可愛いよっ 魅力的だっ!似合ってるのだっ」
「えっ‥そうかなっ… ありがとっ///」
凛は、恥ずかしそうにお礼を言った。
「”自分なんて…”と、凛はいつも言うけど、本当はピンクが似合う可愛い子だ。自信持つのだっ」
シロはそう言いながらニコッと微笑んだ。

その真っ直ぐな言葉に、凛は今までにない苦しさを胸の奥に感じた。
(なに……心臓がドキドキする…)
「ほんとに似合ってるのだっ
にゃんこ目線だから間違いないのだっ」
「なにそれっ 変な説得力っ///」
二人は笑い合った。
—-その夜。
凛は、デートを振り返っていた。
「すっごく可愛いよっ!似合ってるのだっ」
「本当はピンクが似合う可愛い子だ。自信持つのだっ」

シロ…すっごく褒めてくれたし、デート楽しかったな。
あんなに褒められたの初めてかも。
時間が経つのもあっという間で、まだまだ一緒にいたいって思ってしまった…
「このドキドキする気持ちって、なんなんだろう…
これが”恋”ってやつ?…なんてね」
そんなことを考えながら、眠りについた。
…まさか、とある雨の日に
一緒に眠ることになることはまだ知らない……
3. お泊まり 編

ある日、突然の大雨。
シロはずぶ濡れになって凛の家にやってきた。
「凛、今日だけ泊めてほしいのだ…」
「えっ、めっちゃ濡れてるじゃん!大丈夫?!
う、うん、良いよ。とりあえず中入って」
凛は一瞬戸惑ったが、
雨に濡れたシロを放置できるはずもなく、頭をタオルで拭いてあげた。
「…お風呂入って温まったら?」
「うむ、そうさせてもらえると有り難いのだ。
…凛、一緒に入るか?」
「ば、バカじゃないのっ??!///
早く入ってきなさいっ!!!」
「あははっ
わかったのだ」

凛は顔を赤らめながら、タオルと着替えを用意した。
そしてまた、原因不明の”ドキドキ”が胸の奥に現れていた。
風呂から上がったシロは凛のベッドで眠ろうとしていた。
…が、なかなか寝付けない。
「シロ、眠れないの?」
凛が心配そうに話しかける。
「うむ…僕は何かとくっつかないと安心して眠れないようだ。
凛、隣に来てくれないか?」
「はっ??!///
あんた、頭おかしいんじゃないの…!?///」
「僕は眠りたいだけなのだ。
凛、キミは何を考えているのだ?早くこっちにきて?」
「うっ… ね、眠れないっていうなら、仕方ない…へ、変なことしないでよねっ…///」
凛は”仕方なく”という言い訳をしながら、シロの隣で横になった。
すると…
シロは凛に腕まくらをするかのように手を入れ、ピタッとくっついた。
そして、安心したかのように、すぐに眠ってしまった。

一方、凛は、、、
(ちょ、ちょっと何よこの状況… 全然、寝れる気しないんだけど…)
シロを起こしてしまうのでは?というくらい鼓動がドキドキ高鳴っている。凛は言葉を発せなく、ただ顔を赤らめていた。
しかし、なかなか眠れずにいた凛だが、シロの体温が徐々に心地よくなり、知らぬ間にゆっくりと眠りについていった。

第3章:異変

あれからシロは、凛の家に頻繁に出入りしている。
もう、それが当たり前のようになっていたある日のこと。
「シロ、なんか元気なくない…?」
学校から帰宅した凛がベッドで横になるシロを見つけ、眉をひそめた。
「シロ、具合悪い?お腹減ったの?」
声をかけるが、シロは「うーん…」と声をあげるだけ。
「原因はわからないけど、大丈夫なのだ…」
シロは無理に笑顔を作ろうとしたが、その顔はどこか辛そう。
…数分後、シロはスヤスヤと眠っていた。
寝たら治るだろうと、凛も特に心配はしなかった。

「熱でもあるのかな…?シロ、ちょっとおでこ触るよー」
小声でそう言いながら、シロの額に手を当てた。特に熱はなさそう。
その時、凛はシロの顔と自分の顔がすごく近いことに気づいた。

「綺麗な顔…」
シロの寝顔に、愛おしさを感じた。
そして……

少しぼーっとしたあと、凛はハッとした。
(やだっ…私なにやってるのよ…)
もうこの時、
シロへの”恋心”に凛は気づいていた。
次の日。
凛は朝からシロの様子が気になり、授業中も気が気じゃなかった。

「…シロ、大丈夫かな」
放課後、慌てて家に帰ると、シロはベッドで丸くなり横になっていた。
「シロ…具合どう?」
頬に触れると、いつもより少し冷たい。

「…凛、おかえり。
僕は大丈夫なのだ」
(よかった…)
心の中でそう思った時、シロが口を開いた。
「…ねぇ、凛」
シロは真剣な表情をしている。
「どうしたの?」
「僕は……ただの猫に戻らなきゃいけないのかもしれない…」
「え…?」
「…人間の姿でいられるのは、限られた時間だけのようだ。
理由はわからないが、体がそう言っている」
凛は、シロの言うことが理解できなかった。
「でも、またいつもでも人間の姿に戻れるんでしょ?」
凛は、震える声で聞いた。
「だぶん…もう、戻れない」
「な、何言ってんのよ…勝手なこと言わないでっ

あんたは恩返しするんでしょ?まだまだ、やらいといけないことがあるんじゃないの…?!」
凛の声は、弱々しく、焦りが混じっている。
「僕もそう思っていた。
だけど、もしかしたら、役目を終えたのかもしれないのだ」
シロは静かに目を閉じ、
思い出を探りながら話を続けた。
〜〜〜〜〜
「凛は意地っ張りで、素直じゃなかった。

でも、僕のレンタル彼氏の特訓で、少しづつ変化していったんだ。
試着した服を褒めた時、凛は「ありがとう」と言ってくれた。

雨の日に泊めて欲しいと言うと、少し戸惑いながらも泊めてくれた。


短い時間だったけど、その中で凛は変わったのだ。
綺麗な心を持つ凛は、成長が早かったってことなのだ」
〜〜〜〜〜
そう言うと、シロはニコッと微笑んだ。
その笑顔に、凛は泣きそうになるのを堪えて、
「ふんっ…私は素直になんかなってないし、
ぜんっぜん、あんたになんか感謝してないんだからっ!!!」
凛は、細い声でさらに続けた。
「だから、だから、、、」

そう言うと、どうしていいかわからず、勢いよく家を飛び出してしまった。
近くの公園に来てブランコに座る凛。

「シロ…何言ってんのよ…
あんな真剣な表情しちゃってさ…」
凛は涙ぐんでいる。
「だって、やっと素直になれたんだよ。まだまだ、シロといっぱいしたいこともある。行ってない場所だって、たくさんあるじゃん…」
凛は、涙を堪えることができなかった。

「ばか…シロのばか…」
・・・
いっぱい泣いて少し落ち着いた凛は、家に帰ることした。
最終章:さよならの前に

あれから2人は、
”猫に戻らないといけない”という話題には触れず、わりと仲良く過ごした。
大切な時間を、ゆっくりと噛み締めるように…。
そんなある日、一緒に路地を歩いていると
シロがぽつりと口を開いた。
「ねぇ凛、僕ね…そろそろみたいなのだ」
「…… 。」
凛は、何も口にしない。
”そろそろ”の意味が、十分過ぎるほどわかっているからだ。
…少し間をおいて、シロは呟く。
「凛、聞いてくれる?
ずっと、凛のことを“意地っ張り”だと言ってきた。
”レンタル彼氏”や”特訓”なんて言って、偉ぶってさ..
でも、本当は…本当は、
素直になれてなかったのは、僕の方だと気づいたのだ」
「僕は、凛のことが、ずっと好きだったのだ。
君が助けてくれた、あの日から、ずっと。ずっとね。」

初めてシロの涙を見た。
その姿に、凛は胸を打たれたがグッと堪えた。そして、今、自分が伝えるべきことをシロにちゃんと伝えないといけないと心を決める。
目にいっぱいの涙をためて凛が言う。
「あなたのおかげで、、、
シロのおかげで、私は素直になるって意味を知れたよ?
初めて、こんな気持ちになれたの…
私も、シロが好き。大好きっ!
だから、だから、、、まだまだ一緒にいたいよ…
シロ、いなくならないで…
あなたがいなくなるなんて、、、受け入れられないよ….っ

凛は”素直”な気持ちを伝えた。
「ありがとうなのだ、凛。」
シロはとても嬉しそう。
すると、シロの体がやわらかな光に包まれ始めた。
「凛、僕たちが過ごした記憶は、恐らく僕の人間の姿と共に消えてしまう。
だけど、きっと心は変わらないのだ。
成長した君の心。
その心に、僕はずっといるよ。
だから、さよならは言わないのだ」
ニコッとシロは笑った。

そして、白いキラキラと光る煙とともに、シロは元の“白猫”の姿に戻っていく。
「いやだよ…
シロ…シローーーーーっ!!!」

凛の叫びが、静かな町に響き渡った。
・・・
…翌朝。
涙を浮かべながら目をこする凛。

「あれ……なんで私、泣いてるんだろう……?」
ふと窓の外を見ると、一匹の白猫が庭に座っていた。
凛は白猫の元へ。
「君……どうしたの?迷子?」

「にゃー」
「あら……じゃあ、うちに来る?」
「にゃー」
そう言って凛は、そっと白猫を抱き上げた。
——記憶は失っても、心は素直のまま。
ふたりの新しい日々が、また始まる。
「よろしくね、シロっ」

エピローグ:「恋する彼はにゃんこ」
※物語を読んだ後に、聴いてみてください。
「完」 恋する彼は、にゃんこ。|寿司娘
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